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山形地方裁判所 昭和30年(ワ)19号 判決

主文

被告は原告に対し

山形市七日町字東前五百七十番の二宅地十八坪および同所同番の三宅地二坪四合七勺上にある建物を収去して右各土地を

同所二百七十四番の一寺院境内地三百五十四坪七合四勺のうち東南隅間口二十一尺八寸、奥行二十一尺五寸の土地の上にある小屋および板囲いを収去して右土地を

それぞれ明渡せ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求原因として、

一、(1)山形市七日町字東前五百七十番の二宅地十八坪(以下本件(A)地と略称する)および同所同番の三宅地二坪四合七勺(以下本件(B)地と略称する)は原告の所有地であつて、以前は原告寺院の墓地の一部であつたが、原告は大正十一年これを被告に賃貸し、被告は以来同地上に建物を所有し居住している。

(2)しかし被告は次のような事由から右両地を使用する権限はない。

(イ)右両地は原告寺院の境内地の一部であり、これが使用は宗教活動にのみ限られ、みだりに他に賃貸することは許されないものであるから、右賃貸借契約は無効である。

(ロ)しからずとするも、被告は、その後逐次右両地の南方および西方の原告方墓地に侵出して不法に土地を使用するのみではなく、右両地の周囲にある墓の囲り石を右建物の礎石にしたり、流し尻を右墓地に放出したり、糞尿の汲取運搬に右墓地内を使用するなど善良な風俗に反する行為をしてかえりみないのである。そこで昭和二十八年六月二十日原告は被告に対し、相当期間内に右墓地えの侵入ないし不法な使用をやめなければ右両地に対する賃貸借契約を解除する旨の催告をし、同書面は同日被告に送達されたが被告はその非を改めることなく、その後も原告は世話人を通ずる等種々被告に交渉したが、被告はこれに応じないばかりでなく、原告は寺院として事の円満解決を望み、右墓地の管理礼拝に感情を害することのないように被告が折合えば、原告は右両地をなお賃貸しておいてもよいと考え、同二十九年九月二十五日その旨山形簡易裁判所に調停申立をしたが、被告は原告の譲歩に対して何らの反省の色なく、被告の代理人として出頭した被告の子は、墓地を浄域にし礼拝に適する環境に復するようにと意見を述べた調停委員に対し「生きている人間と墓とどちらが大切か」と暴言を吐く始末であるから、被告方においては右墓地の浄化等は念頭になく、前記のような侵入ないし不法な使用を改めない。されば右催告より相当期間を経た今日では、すでに右賃貸借契約は解除されたものというべきである。

二、(1)同所二百七十四番の一寺院境内地三百五十四坪七合四勺は原告の所有地であるが、原告は大正十三年ころ、その東南隅の一部約九尺四方をつつじの盆栽の冬囲いのために被告に一時的に使用を許したところ、被告は右冬囲いの設備を次第に拡張強化し、間口二十一尺八寸、奥行二十一尺五寸の地域(以下本件(C)地と略称する)におよび同地上に物置小屋様の建物ならびに板囲いを設けている。ところで原告寺院は以前本堂を焼失していたがこれを修築せんとする議がおこり、これにともない墓地整備の必要が生じたのであるが、被告の右土地の使用権は右のように一時的な使用貸借関係であるので、原告は昭和二十八年六月二十日、一ケ月内に右土地を返還する旨の通知をし、同書面は同日被告に送達されたものである。よつて右使用貸借関係は現在では既に終了しているのである。

(2)仮に被告の右(C)地に対する使用権限が被告主張のごとく賃貸権によるものであるとしても、右は盆栽の冬囲いのための一時的賃貸借契約に基づくものである。しかして原告は既述((1))のような事情から、同二十八年六月二十日にこれが解約の催告をし、同日これが被告に到達しているのであるから、現在においては右賃貸借契約は終了しているものというべきである。

(3)そうでないとしても、右賃貸借契約は前記第一項(2)(イ)で述べた理由から無効である。以上の次第で被告に現在本件(A)ないし(C)各地に対する何らの使用権をも有しないのであるから原告は所有権に基いてこれが明渡と、被告所有の本件(A)、(B)両地上の建物と本件(C)地上の小屋および板囲の各収去を求めるために本訴請求におよんだ、と述べた。

立証(省略)

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

原告主張の事実中、被告が本件(A)ないし(C)各地を占有し、右の中(A)、(B)両地上に建物を建築所有していること、および(C)地上に盆栽の置物小屋を建て、かつ板囲いを施してこれを所有していること、昭和二十八年六月二十一日原告主張の催告の書面が被告方に到達したこと、および原告主張の調停手続が係属したことは認めるが、原告寺院の本堂建築については不知、その余は否認する。すなわち、被告は大正十一年八月十五日原告寺院の当時の住職横山法定より当時山形市七日町字東前五百七十番宅地二十六坪二合九勺の外約一坪五合を建物所有の目的で地代一ケ月金一円七十銭で借受け、同年九月ころ同地上に建坪約二十坪の住宅を建設したものである、と述べ、さらに抗弁として、

三、(1)被告が不法に侵出して使用していると原告が主張する本件(A)、(B)両地の南方部分とは一坪五分の部分であつて、同部分は大正十三年五月原告より借りうけたものであり、このために前記従来の地代は二円に改められたものであり、また、その西方部分とは約半坪の部分であるが、原告主張の墓地拡張の際に借りうけるに至つたものであり、何ら不法に使用しているものではない。

(2)本件(C)地は、大正十一年八月十五日期間は本件(A)、(B)両地の借用中とし、地代は一年につき五円と定めて借りうけたものである。と述べた。

立証(省略)

理由

先づ本件(A)、(B)両地部分の請求について、

一、大正十一年原告は被告に対し右両地を建物所有の目的で賃貸し、被告はその後同地上に住宅を構えて居住し来つたことは当事者間に争いがない。

二、原告は右両地は原告寺院の境内地であり、これが使用は宗教活動にのみ限られ、みだりに他に賃貸することは許されないものであるから、これが賃貸借契約は無効であると主張するので検討する。

(1)成立に争いない甲第一号証の一ないし三、同第二号証および検証(第一、三回)の結果ならびに原告代表者本人の供述おび弁論の全趣旨を総合すれば、

本件(A)、(B)両地は、土地台帳上は宅地として現在登録されているが、大正十一年当時は山形市七日町東前二百七十四番の一境内地三百五十四坪七合五勺、同所五百七十番の一墳墓六畝十四歩、同所同番の四墳墓地一歩および同所同番の五墳墓九歩と一体をなし、原告寺院の境内地であつたこと、および右両地は土地台帳上原告寺院外四十四名の共有名義であるが、これは右登録当時原告寺院はいまだ宗教法人の設立に至つていなかつたので、当時の壇家全員と住職は原告寺院の構成員であり、原告寺院と一体をなしているということを明かならしめるために右共有名義を使用して登録したにすぎず、その実質は原告の所有地であることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

(2)ところで右賃貸借契約締結当時においては、寺院境内地は(一)一時限りの使用(二)参詣人休息所等其使用一カ月以内に止まるもの(三)公益のためにする使用、を除いてその寺院以外の者が使用できないものであり、右限定された使用の場合であつても、右(二)(三)の場合には地方長官の許可が必要とされ(明治三六年内務省令第一二号寺院仏堂境内地使用取締規則)これに反した場合には明治六年七月一七日太政官布告第二四九号、同九年二月二日教部省達第三号の趣意に照らし、無効というべきである。しかるところ右両地の賃貸借契約は右省令所定のいかなる要件をも充足していないことは明かである。されば原告と被告間に大正十一年に締結された本件(A)、(B)両地についての賃貸借契約は無効にして、被告は何らの使用権限をも有しないものというべきであり、この点についての原告の主張は理由がある。

次いで本件(C)地部分の請求について、

一、被告が本件(C)地上に小屋を建て、かつ板囲いを施してこれを所有していることは当事者間に争いがない。

二、被告の右使用権限は、大正十三年ころ原告との間に締結された一時的使用貸借契約に基づくものであるとの主張について案ずるに、

成立に争いない乙第一号証および被告本人の供述によれば、被告は原告から大正十一年中に本件(C)地を一年につき金五円の地代で借りうけるに至つたことが認められ、これを左右するに足る証拠はない。されば被告の右土地の使用権限は借地権に基くものというべきであり、使用貸借契約であることを前提とする原告の主張はその余の点については判断するまでもなく理由がない。

三、被告は右賃借期間は本件(A)、(B)両地の借地期間と同一であると主張し、原告は一時限りであると抗争するので案ずるに、

証人加藤謹次郎の証言および被告本人の供述ならびに検証(第一回)の結果によれば、被告は本件(C)地を盆栽の置場として借りうけ、現在もそのために使用していること、ところで右盆栽は被告の副業であつて生活を維持するためのものであつたこと、そしてこのことは原告も充分承知のうえで賃貸したものであること、従つて右(C)地は盆栽置場として賃貸したことは認められるが、一時限りのものであることを認めるに足る証拠はなく、原告代表者本人の供述のみをもつてしては右認定を左右することはできない。されば、一時的賃貸借契約であることを前提とする原告の主張はその余の点については判断するまでもなく理由がない。

四、そこで本件(C)地は原告寺院の境内地であるから、本件(A)、(B)両地について述べたと同一事由から右賃貸借契約は無効であるとの原告の主張について案ずるに、前記甲第二号証および検証(第一、三回)の結果によれば、右土地は原告の所有地であり、山形市七日町字東前二百七十四番の一境内地三百五十四坪七合五勺の一部であつて原告寺院の境内地であることが認められ、その余の点については、本件(A)、(B)両地についての前記(第二項の(2))認定と同一に帰し、結局被告は何らの使用権限をも有しないものというべきであり、この点についての原告の主張は理由がある。

よつて原告が被告に対し、所有権に基いて本件(A)ないし(C)各地の明渡と、被告所有の本件(A)、(B)両地上の建物および本件(C)地上の小屋および板囲の各収去を求める本訴請求は(本件(A)、(B)両地についてはその余の点について判断するまでもなく)、理由があるから正当として認容すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

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